絶滅危惧種『ヒト』
直樹はその全員にワクチンを用意してくると約束をして、感染症学科に急ぐ。


まるで往年の父がシンクロしたような錯覚を覚えていた。


急いで研究室に戻った直樹は、培養している細菌からワクチンを作ると、すぐに入院病棟へと取って返す。


上の階から順番にしていくことにして、エレベーターに乗り込んだ。


最初は九階の原母娘である。


病室に入ると、母と娘は待ちわびていたように、すがる目を向けてきた。


「遅くなりました。すみません」



「いえ、大丈夫です」


謝った直樹に向かって、美加子は笑顔を作る。


直樹は台の上に携帯のバッグを置き、中からワクチンを接種する道具を取り出した。


「皮下注射なので、チクッとします。ちょっとだけ我慢してくださいね」


直樹は美加子の腕を取ると、注射針を腕に突き刺した。


「いっ……」


痛みに美加子の顔が歪む。


母の痛がる顔を見た、娘の陽菜も顔を歪めた。



「じゃあ次は君」


「は、はい」


陽菜は腕を差し出したけど、顔は腕を見ないように横を向く。


チクッとした痛み。

陽菜は思い切り目を閉じて顔を歪めた。


「すみません。僕は他の部屋の患者さんのところにも行かなきゃならないので、しばらく安静にしておいてください」


「はい」


直樹は会釈をすると、急いでバッグを持ち、次の部屋を目指した。
< 162 / 223 >

この作品をシェア

pagetop