絶滅危惧種『ヒト』
すべての患者のもとを回った直樹は、一度原美加子の部屋を覗くことにした。


これでワクチンが効いてくれたなら、少しは偉大な父に近づけた気がする。


九階でエレベーターを降りると、そのまま部屋に直行した。



「原さん。お変わりはありませんか?」


部屋に入るなり直樹は二人に質問する。



「ええ……」


返事をする美加子の顔が浮かない。



「どうかされました?」


直樹は不安になった。


「何か急にお腹が気持ち悪くなってきちゃって」


美加子はお腹をさすり始める。


「え?」


「先生。私も……」


娘の陽菜も顔を歪めた。



「原さん……」


まさか……。でも、これは発病直前の様子に近い。



「うぷっ、ぅっ、うぇええええええ」


突然美加子が膿を吐き出す。



「うわぁああ」


直樹は咄嗟に後ろによけた。



「うぷっ、うげぇえええええ」


同時に娘の口からも吐しゃ物が吹き出す。



「ひ、ひぃいいい」


直樹はそのまま尻餅をついてしまった。


思いもよらぬ展開。


直樹の心臓は、激しく動悸を打った。

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