絶滅危惧種『ヒト』
ここから直樹の自宅までは、結構距離がある。


全力で走って45分くらいだろうか?


相変わらず道路は渋滞している。

もっともその大半が、運転中に発病して死んでいる人の車だった。


歩道もあちこちに人が倒れて道を塞いでいるから、なかなか速度を上げることが出来ない。


大きな道路を避けて、中の道に向かうことにした。


もっとも狭い道のほうが、道路が塞がれている可能性も高いかもしれない。


そうも思ったけれど、井上は深く考えなかった。


大きな荷物を持って、駅のほうを目指す人を多数見かける。

おそらく電車に乗って、地方にでも逃げようとでも思っているのだろうが、

おそらく電車もダイヤ通りには動いていないだろうし、それ以前に残念ながら、彼らはすでに感染しているだろうと、井上は思った。


病院を出てから20分ほど走っただろうか。ずっと走り続けているから、そろそろ息が切れてきた。


少し休憩を入れたいところではある。しかし井上はペダルをこぐのを止めなかった。


これで直樹が家にいなかったら、洒落にならない。


そこで井上はふと思った。


聖人に自宅の電話番号を聞けば良かったのだ。

携帯電話が繋がらなくても、自宅の電話なら繋がりそうなものである。


しまった。しかし井上は聖人の電話番号を知らない。

今更病院に引き返すなら、このまま行ってしまった方が良いだろう。


井上が再度自転車をこぎ始めたときだった。

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