絶滅危惧種『ヒト』
念のために生ワクチンを投与した全員の部屋を回った結果、全ての人が同じ症状で死んでいたのである。


全員を自分の間違った思い込みで殺してしまったのだ。


直樹は絶望した。


これは根っから真面目な直樹にとって、堪らなく辛いことだった。


彼らを殺してしまった。そして……誰よりも愛している女性も、自分の手で殺してしまったのだ。


死のう……。


直樹はふらふらと彷徨うように、歩き始めた。


自分が殺してしまったと思いつつ、もしかしたら留美だけは違うかもしれない。ふとそう思った。


最期にそれだけ確認しよう。


直樹はそう思い、感染症学科に向かった。


留美の遺体を確認して、あの跡がなければ幾分救われる。

でも、彼らと同じように、あの跡があったなら、自分が留美を殺した事になるのだ。


それだけは違ってほしかった。

でなければ、後を追って天国に旅立っても、留美に顔を会わせらえない。

直樹はそう思った。


ふらふらと重い足取りで、感染症学科に帰り、ドアを開ける。


「兄ちゃん!」


そこに聖人たちがいた。

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