絶滅危惧種『ヒト』
「聖人……」


「良かった。まだ生きてたんだね」


聖人はホッとしたように息を吐いた。


「直樹!」


綾乃が駆け寄って、直樹を抱きしめる。


「母さん……」


直樹の目から大粒の涙が溢れていた。


「俺が……留美を殺したかもしれない」


「え?」


突然息子の口から、突拍子もない言葉が出たから、綾乃は驚いて息子の顔を見つめた。


「どういうこと?」


直樹はその問いには答えず、母の身体を引き剥がすと、留美の元に歩み寄る。



「留美……」


寝かせている留美の服の前を肌蹴させようとした。


「ちょっと直樹、アナタいったい何を?」


綾乃が驚いて声をかける。


直樹はそれにも答えないで、留美の服の前を肌蹴させた。


そこには原母娘たちと同じような、青紫色の跡がある。



「兄ちゃんコレは……」


それを見た聖人は、目を丸くした。



「生ワクチンは皮下に留まらず、消化器官を目指して移動したんだ」


「え?」


「そして直接小腸に辿り着いた……。おそらく飛沫感染の場合は、胃液などが侵攻を食い止めているんだと思う。

だけど、皮下注射された細菌は、直接小腸に辿り着いたから、すぐに発病したんじゃないだろうか」


「ああ、そういうことか」


聖人は兄の言ったことを、すぐに理解した。


「俺が留美に生ワクチンを打った……」


「兄ちゃん」


「俺が留美を……俺が留美を殺したんだ。うぁあああああああああ」


直樹は頭を抱えて、大声を上げた。

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