絶滅危惧種『ヒト』
「早く着けよこの野郎!」


聖人は中々進まない階数表示にイライラして、つい叫んでしまった。


「聖人……」


梓が驚いて見つめる。


聖人の怒鳴る顔なんて、知り合ってから初めて見たのだ。


「兄ちゃんは絶対に死なせない」


聖人は顔を歪める。


梓もそうじゃないかなぁとは思ったけど、やっぱりお兄さんは死ぬつもりだと聖人は思っているようだ。


自分の彼女を誤って死なせてしまったのは、やはり死ぬほど辛いことなのだろう。

梓だって自分の判断ミスで、聖人を殺してしまったら、死にたいって思うに違いない。


だけど、あの段階では、生ワクチンを投与するのが最善の策だと思ったし、事実私たちは死んでいないのだ。


ようやく最上階に到着したエレベーターから降りると、三人は急いで屋上に上がる階段に向かった。


階段を大急ぎで駆け上がると、屋上に出るドアは開いたままだったから、どうやらお兄さんはここに来たに違いないと、梓は思った。



――いた!


お兄さんはフェンスを乗り越えている。


「兄ちゃん!」


聖人が駆け寄りながら叫ぶ。


お兄さんは向こう側に降り立つと、こっちを振り向いた。



「兄ちゃん!」
「お兄さん!」
「直樹!」


三人が同時に叫ぶ。


「聖人すまん。俺はもう無理だ。後はオマエに託す。母さんごめんね。本当にごめん」


直樹は母に向かって頭を下げると、そのまま振り向いて宙に舞った。

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