絶滅危惧種『ヒト』
「直樹! 直樹、直樹、直樹ぃいいいい!」
「兄ちゃーーーーーん!」


大声で叫ぶ二人とは対照的に、梓は声を出すことが出来なかった。


胸が締め付けられそうでドキドキして苦しい。身体の奥から震えが来る。ガタガタと震えて、声が出なかった。



「直樹ぃいいい。イヤぁあああああ」


フェンスにしがみつき、髪を振り乱して泣き叫ぶお母様。

その場に跪き、握りこぶしで地面を叩く聖人。


梓は震えながら、二人を見ることしか出来なかった。


普通に生活をしていたら、そうそう人の死に目に立ち会うものではない。


だけど目の前で発病して死んでしまった朋美をはじめ、この数日の間に、人が死ぬ瞬間をどれだけ見ただろう。


でも、それらは全て病気によるものだった。

だけど今のお兄さんは、自殺なのだ。


感染しての発病は、止めようがないけれど、お兄さんの自殺は、もしかしたら止めることが出来たかもしれない。


そう思うと、苦しくて苦しくてたまらなかった。


我が子を目の前で亡くしたお母様が、あまりにも不憫でならない。


「お母様……」


「ぁああ〜〜〜梓ちゃ〜〜〜ん」


梓は綾乃を抱きしめる。すぐに綾乃も力強く梓にしがみついた。


これで今回の細菌に詳しい人が、全員死んでしまったことになる。


私は……いや、地球に住む全ての人たちは、このままどうなってしまうのだろう。


梓は絶望的な気持ちで、綾乃の身体を抱きしめる腕に力を込めた。

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