絶滅危惧種『ヒト』
《どうかしたのかい?》


騒々しいやり取りが始まったので、ブライアンが気にして聞いてくる。


《実はねぇ、私たちも生ワクチンを打ってるんだけど、発病していないでしょ》



《ああ、さっきそう言ってたね》


《その原因が南極の氷じゃないかって》


《南極の氷?》


《ええ、一番最初の発病者は、彼女の叔父さんなんだけどね》


綾乃は梓を指差す。


《ふむ。で?》


《彼女の叔父さんは、南極観測隊員で、彼女に南極の氷をプレゼントしたの》


《ほぅ……》


《彼女の家族と、私の家族はその氷を溶かしたウイスキーや水を飲んだのよ》


《なるほど、そう言うことか。ところでその氷はまだ残っているのかい?》


《ええ、うちにもいくらかはあるけど、彼女の家にある物を、彼女のお父さんが今バイクでここに運んでくれているところよ》


《そうか。ここまではどれくらいで来れるんだい?》


《さぁ……私はバイクに乗らないから、どれくらいかは分からないけど、多分30分くらいかしら》


綾乃は首をかしげながら答えた。


《君はどう思う》


ブライアンは隣にいたアレックスに聞く。


《彼らはかなり早い段階で、キャリア(保菌者)と接触をしている上に、生ワクチンまで投与している。

なのに未だに発病していないとなると、やはり何らかの原因で免疫が出来ているに違いないだろう》


《うむ。彼らの血液を検査させてもらおう》


《イヤ、血液は関係ないんじゃないか?》


聞き役に徹していたケビンが口をはさむ。


《どういうことだ?》


《おそらく彼らが口にした南極の氷の中に、新種の腸内細菌か、もしくは現存の腸内細菌を、突然変異させる物質が入っていたんだと思う》


《なるほど、それが侵入してきた今回の細菌を小腸で殺しているというわけね。それなら辻褄があうわ》


ジョディーが目を輝かせた。

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