絶滅危惧種『ヒト』
行き詰まりかけていたところに、降って湧いたかなり信憑性の高い話し。重苦しい空気が、一瞬で払拭される。

梓のひらめきは、そこにいた全員に希望を与えた。


「そういえば井上さんが、梓の叔父さんが発病した後すぐに、一緒に帰国した観測隊員に電話で確認したら、彼らは全員生きていたって言ってた」


聖人の声が弾む。


「じゃあ間違いないわね。おそらくみんな氷を口にしてたんだわ」


綾乃も目を輝かせた。



「あっ……どうしたの梓ちゃん?」


梓の顔が歪んだので、綾乃が不安になって声をかける。



「タカ叔父ちゃんも氷を口にしてたら……死なずにすんだのかな……」


梓が声を詰まらせた。


「梓ちゃん……」
「梓……」


梓は目頭を押える。


「確かに……梓の叔父さんが、南極にいるときに氷を口にしていたら、今回のパンデミックは起こらなかったかもしれない……」


聖人も胸が詰まった。



「じゃあ、みんなが死んじゃったのは、タカ叔父ちゃんのせいってことだよね?

朋美が死んだのも、クラスのみんなが死んだのも、全部タカ叔父ちゃんの……」


「梓……」


「梓ちゃん。確かにそうかもしれないわ。でもね、聖人の父親が亡くなる前に、よく口にしていたことがあるの」


綾乃は夫が死ぬ前によく話していた、増えすぎた人類と、まだ見ぬウイルスの話をした。



「だから、温暖化のせいで、長い間氷の中に閉じ込められていた細菌が、すでに南極では、外の世界に現れて活動していたんだわ。

たまたま梓ちゃんの叔父様が、それを持ち帰ってしまったけれど、

そうじゃなかったとしても、いずれは誰かが持ち帰ってくるようになっていたはずに違いないわ。

だから梓ちゃん、叔父様のことを責めないであげて」


「お母様……」


綾乃は泣いている梓の手を握りしめ、優しく微笑んだ。


< 205 / 223 >

この作品をシェア

pagetop