絶滅危惧種『ヒト』
「ちょっと孝明!」


「いやいや姉ちゃん。まだ確定じゃないってば。本当にもう」


話をはぐらかそうとした孝明を紀子が咎めようとしたが、孝明は面倒くさそうにあしらった。


「桜小路くんってさぁ、もしかしてお父さんの名前って昇じゃないの?」


「えっ、ええそうです」


「あれだよね。アフリカで伝染病が拡大するのを抑えた現代の野口英世って呼ばれてる」



「ええ、まぁ」



「そうか、それで君もそっちの方面に進むの?」


「はい。兄も東城医大で感染症学科にいて、日々そういった研究をしていますし、僕もそっちの方面に進みたいと思っています」


「へぇ~よし合格」


「え? 合格って何が合格なのよ」


栞が口をはさむ。



「いいか栞、感染症学科なんてマニアックなとこにこもってるなら、浮気の心配もないだろ」


「何で?」


「だって可愛い子が感染症学なんて専攻しないだろ? だから出会い自体がないはずだ」


「ちょっとタカ叔父ちゃん。それは偏見だよ」


栞がニヤニヤする。


「でもうちのアニキ、ずっと研究室にこもってますけど、今の彼女は同じ研究室にいる人で、結構美人ですけど」


「バカ野郎! せっかく俺がナイスなフォローをしてやったのに、そんなこと言ったら、浮気をしますって言ってるようなもんじゃないか」


「えっ、いや、しませんってば」


「本当にしない?」


黙って聞いていた梓が詰め寄る。


「バ、バカ、するわけないだろ」


梓の叔父さんの言うように、余計なことを言わなければ良かったと、聖人は反省した。

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