絶滅危惧種『ヒト』
「そろそろ出来ますよ」


少し経って朋美が声をかける。


「うん。じゃあ片付けるよ」


孝明は清掃用具を片付けると、手を洗ってダイニングチェアーに腰掛けた。


「はい。どうぞ」


朋美はシチューの入ったお皿と、バゲットを焼いたものを孝明の前に置いてやった。


「めっちゃ美味そう」


孝明は目を輝かせて叫ぶと、スプーンを手に持って、すぐにシチューをすくい、口に運ぶ。


「美味っ!」


目を真ん丸にした孝明を見て、朋美は嬉しくてしかたなかった。


「まぁ、インスタントですからね」


少し謙遜してそう答える。


「何言ってんの。レトルトパックじゃないんだから、立派な料理だよ、これ」


「そうですか? えへっ、有り難うございます」



「いやいや、これならいつでもお嫁にいけるね」


「えっ、本当ですか?」


「うん。俺が保証する」


「でも、全然モテないんですよ私」



「そんなことないでしょ? こんなに可愛いのに」


「それが本当に全然なんです。可愛いなんて言ってもらえたのも初めてだし」



「えっ、そうなの? 何をやってるんだ日本の若者たちは、こんな可愛い子を放ったらかしにして」


「えへへ、それはちょっと言いすぎですよ」



「そうかなぁ? 全然そんなことはないと思うけど」


「じゃあ、日本の若者に相手にされないから、南極のオジサンのお嫁さんにしてください」


朋美は冗談めかして言ったけど、心の中は緊張で声が震えそうだった。

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