絶滅危惧種『ヒト』
朋美は具合が悪そうに、お腹を擦っている。

気分が悪いなら、無理をせずに保健室で休ませたほうが良い。

梓が手を上げて、先生に朋美のことを告げようとした瞬間だった。


「うっ、うぷっ」


朋美が咄嗟に手で口を押さえる。



「うげぇええーーーー」


しかし、受けたその手を弾き飛ばす勢いで、朋美の口から吐しゃ物が撒き散らされる。


勢いよく飛び散ったソレは、朋美の三つ前の席に座っている生徒にまでかかった。


「いやぁあああああああ」


悲鳴を上げたのは、朋美の前の席に座っていて、吐しゃ物を浴びた金沢真帆だった。


「くせぇ!」


その前の席に座っていた大山智孝も顔を歪めて振り向く。


机に突っ伏して動かなくなった朋美を、みんな遠巻きに見つめた。


「朋美ぃいいいいい」


梓は我に帰って朋美に駆け寄ろうとしたが、隣に座っている聖人に、手を掴まれて止められる。


「待て梓! みんなも触るな! 伝染病の可能性がある!」


「いやぁあああ」
「きゃぁあああ」


聖人が伝染病と叫んだので、クラス中で悲鳴が上がった。


「先生! 国立感染症研究所に電話して、小林孝明と同じ症状の患者が出たと伝えてください」


「えっ、何?」


英語教師の近藤文絵が聞き返す。


「だから、国立感染症研究所に電話をして、先日東城医大病院で亡くなった小林孝明と同じ症状の患者が出たと伝えてください」


「わ、分かったわ」


近藤は頷くと、教室を飛び出していく。


聖人は携帯電話を取り出すと、兄の直樹に電話をかけた。

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