【短編】俺の可愛い妹
「お前、最近変。なんかあったか?」
今度は、心配そうな顔をして覗き込んできた。
変。
あたしだって、そう思う。
武ちゃんは近所に住む従妹、タツ兄の友達。
初めて会ったのは、10年前だった。
意地悪するタツ兄と違って、優しい武ちゃんが大好きで。いつも遊んでもらって。
だから武兄ちゃん、なんて呼んでた時期もあったくらい。
ただ武ちゃんは、いつも女の人を連れて歩いてるんだ。
だけど今までなら、武ちゃんが誰と遊んでいても。
誰と一緒に居ても。
その女の人が
『誰?』
って聞いた時に
『梓衣は俺の可愛い妹』
って、一緒に居る相手に言って貰えれば満足だった。
いつからだったかな。
武ちゃんは、誰? って聞かれると絶対この言葉を言ってくれるんだ。
なのに、最近はそれすらイライラしちゃう。
この気持ちを何て言えばいいかなんて、わからない。
昔から、武ちゃんを好きな気持ちは一緒なのに。
この気持ちがわからない。
「……わかんない」
「何だそれ」
笑いながら頭をポンポンと叩く武ちゃん。
だって、本当にわかんないんだもん。
「でも、さっきみたいのは止めろよ? 気分わりぃだろ?」
コクンと頷いたあたしを見てまた笑った。