【短編】俺の可愛い妹
「ただいまー」
不貞腐れたまま、玄関で靴を脱ぐあたしに聞こえてきたママの声。
「梓衣、これ来てたわよ」
「ん? 何ー?」
ママの手には大きな宅配便の袋。
「あ、浴衣だ!」
さっきまでの不貞腐れた顔から笑みが零れた。
通販で買って貰った浴衣。
今年は、いつもの白地にピンクのお花じゃなく、黒地に淡いピンク。
――♪
ちょうど、着付け終わって鏡の前でクルクル回るあたしの携帯電話のディスプレイには、武ちゃんの文字。
「もしもし?」
『あ、梓衣。俺』
「うん♪あたしも後で電話しようと思ってたのー」
『あ、そうなん?』
「あ、あのね? 夏祭り……一緒に行ける?」
『仕事終わってからになるけど。いいか?』
「うんっ! 全然平気っ」
『ははっ。じゃあ、その日迎えに行くな』
「うんっ!」
低くて優しい声。
電話の武ちゃんの声が1番好き。
全てが、あたしだけで。
かける前に、あたしに電話しようって思ってくれたんだろうな、とか。
切った後も少しは、あたしとの話の内容とか頭の中に残るんだろうな、とか。
少しでも武ちゃんの時間を独占出来てるって想うと幸せになれるから。