彼の者、魔王と云ったそうな
この庵に住んで何年か、それすら忘れる程生きている縁(えん)。ああ、10年か、20年か、いや、100年だったか。
それすなわち、妖怪なり。
「ほんに、眠いどすえ。道ちゃんもそう思いますやろ?」
「変な名で呼ぶなと言っているだろう。俺の名前は【道吉】(どうきち)だ。道(どう)ちゃんなどと呼ぶな」
「別にええやないの、いけずうっ」
庵の奥から現れた【道吉】(どうきち)という男。立派な袴に身をつつみ、それ相応の傲慢な態度も度々見せる。
「ほんで、道ちゃんは僕になんの用があって此処に来ましたんやろか。まーた妖退治どすか?」
「その件は暫く頼みに来ないさ。今日は別件で “わざわざ” 赴いてやったんだ」
別に来んでもええのに。道ちゃんも相変わらず寂しがりやねえ。
口には出さず溜め息をつく縁であった。