彼の者、魔王と云ったそうな
内から漏れる強大な力に、縁はゴクリと喉を鳴らす。
「もう一度問う。お前の名はなんというのだ」
「……【縁】(えん)。妖の道を外れたもんや、記憶に残すほどの価値もない男やしに、僕ンことは忘れるさかい」
「それは私が決めること、お前が決めることではないことよ。……にしてもお前の口調、西の者か」
「そんなことあらへんよ。ただ僕の生まれが関西寄りやったさかい、仕方なしと受け止めてくれはったら嬉しいどすなあ」
「……それも、私が決めること故」
ダンッと右足を前に出し、勢いよく地を踏む老人。その途端、縁の体が宙に浮き重力に逆らえず真っ逆さまに落ちてゆく。
近くに落ちていた太い木棒を手にする老人は、「哈ッ」と声を上げて一閃を描いた。