彼の者、魔王と云ったそうな

ざざあッと木々がより一層激しく揺れ、緑に色づく葉がばらばらと二人を囲むように散っていく。


そうして老人が、縁がいたであろう場を振り返ったとき、そこには彼の男はいなかった。


ムッと眉間にシワを寄せる老人。しかし、ふと首筋に当てられた感触に目を見開く。



「激しいお人どすえ。僕ンことのどこが気に入らへんかったんか、全部吐いてもろうときますえ。

ほんで、あんたは他に名乗らせといて、自分は名乗らへんのかいな」


「…失礼したな。

私の名は【山ン本 五郎左衛門】(さんもと ごろうざえもん)。人は時に、私を【魔王】と呼ぶが、それだけのこと。

“まだ” そこまでは達しておらぬよ」



山ン本 五郎左衛門、魔王、……

それらの言葉に明らか動揺する縁。山ン本の首筋に当てた刀の切っ先も、震えと同様カタカタと揺れている。

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