スキというキモチのカタチ。

カタチを作る・このは。

うちに帰る前に、こっそり彬ちゃんちに寄る。



普段からアタシと仲良くしてくれていたおばさんは、目にうっすら涙を浮かべて喜んでくれた。


嬉しかった。


このちゃんは、私の娘みたいなものよ!


よくおばさんはそう言って、アタシの我儘に付き合ってくれた。



彬ちゃんの好きなものを聞いては作ってみたり、写真が欲しいと強請っては隠し撮りに協力してくれたり。


いつもアタシの味方でいてくれた。


「おばさん、ありがとう。」



それしか言えなかった。

嬉しくて泣きそうだったから。






その後すぐ。


うちに帰った。


「た…ただいまぁ〜。」



小さな声で言うと、リビングの戸が勢いよく開く。

「このは‼心配したのよ!
どこに行ってたの⁉」



お母さんが怒った顔をして矢継ぎ早に話しかけてくる。


「あのね、お母さん。アタシね、昨日」

そこまで言うと、それを遮る様に彬がこのはの言葉を制する。



「おばさん、おはようございます。」

「あら、彬くん。おはよ…え?えぇっ⁉」


カンのいいお母さんは何を言いたいのか、直ぐに気付いたらしい。


「あら、あら嫌だ!こんなとこで話すことないじゃない。上がって!ね?」



妙に上機嫌な母親に呆気に取られながらも、リビングへと向かう。
当然、そこには父親の姿があるわけで。




「おじさん、おはようございます。
朝からすみません。」




先手必勝。



そんな感じで彬が話し掛けた。


「おはよう、彬くん。珍しいね、キミがうちに来るなんて。いつもはこのはがお邪魔してるのに。」



無断外泊についてどうこう言うつもりはないのだろうか?



何故彬がうちに来たのか、それをやんわりと問うているのだろうと言うことは、いくら鈍いこのはでもわかった。




「おじさんとおばさんに、お許しを頂きたくて、朝から来ました。」


「許し?」


怪訝そうな顔をして父が問い直す。



「昨日夜のこのはさんの無断外泊は僕が原因です。申し訳ありません。

ですが、軽い気持でこのはさんを付き合わせたわけじゃありません。


結婚を前提にこのはさんとお付き合いさせてください。」


そこまでを一気に言い切る。



父の後ろで母は嬉しそうにしていた。


「彬くんはこのはより一回り程年上だったよな。」


静かに父親が問う。

「はい、そうです。今35歳です。」


真面目な顔をして、居住まいを正して彬が答える。


「君の周りには年相応の女性がいると思うのだが、何故このはなんだい?
自分の娘を捕まえて言うことじゃないかもしれないが、このはは平凡な子だ。
何かが抜きん出て良いわけでもなく、かと言って悪いわけでもなく。
そんな子と一緒になって飽きたから返す、というわけにはいかないんだよ。」



静かに言うだけ、気持がひしひしと伝わる。

「おじさんの言いたいことはわかります。僕が父親の立場なら、一回りも年の離れた男に娘をやろうとは思わないです。

でも、僕にはこのはさんしかいなかった。

長い間、このはさんの気持を知りながら、世間体や周りの目を気にして受け止めてやることができませんでした。」



彬の話を聞いていたら、自然と涙がこぼれ落ちた。


ずっと前から好きでいてくれた。


それが解ったからだ。

そっと添える様に繋がれた手。


見上げた先にあるのは強い意思を宿した瞳。



父に向き直り続ける。



「でも、誤魔化すことが出来なかった。
自分が未熟なのかもしれません。
けど、もう誤魔化すことをやめて正直に生きようと決めたんです。

その時、側にはこのはさんに居て貰いたい。

僕の我儘です。

大切にします。泣かせることもあるかと思います。
でももう、この繋いだ手を離したくありません。



お願いします。」





彬が頭を下げる。



「お父さん…アタシ、ずっと前から彬ちゃんだけがスキだったの。

この気持は変わらないし変えられないの。

お願いします。」



2人で一緒に頭を下げる。




「あなた…」



母親の呼びかけに父はひとつ、息を吐いた。


「俺はね、このはが幸せならそれでいいんだよ。
だけど、あえてイバラの道を進もうとするなら一度は正してやろうとする。
それが親の役目だろう?


いい顔をするようになったね、二人とも。

色々大変だろうけど頑張りなさい。」






一気に緊張が解ける。





わっと泣きたくなって彬を見上げた。



隣にいる彬の目にうっすらと涙が見えた。



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