スキというキモチのカタチ。
これから先のふたり。

コイビト・このは。

彬と付き合い始めて1ヶ月が過ぎた。


寒さが本格的になり、寒がりなこのはには厳しい季節だ。


けれど毎朝、この寒さのおかげで幸せな瞬間がある。



「おはよう。」


玄関先でこのはを待っていた彬が、支度を済ませたこのはに手を差し出す。


「おはよ、彬ちゃん。今朝も寒いね!」


差し出された手に自然と自分の手を重ね、ギュッと握られて暖かくなる。



「相変わらず冷え性だな。氷みたいだ。」


引き寄せられ、ハァっと息をかけて温めてくれる。



このははこの瞬間が好きだ。



守られているような、そんな安心感を感じるからだ。



「彬ちゃんは手があったかいね〜。
男の人って冷え性じゃないのかなぁ。」



ゆっくりと駅に向かう道すがら、他愛のない会話をしているこの時間がとても大切だ。


週末以外でなかなか時間が取れない彬との、唯一の甘い時間だから。



「このは、来週なんだが。」

「来週?」



何かあったかしら…と考えていると、彬から小突かれる。


「お前、自分の誕生日忘れてやしないか?」



………。



「あ!そうだった!」



24歳になるんだ。彬とひとつだけ、年が近くなる。



「どこか行きたいところとかあるか?あれば連れて行くぞ。」




行きたいところ…。




特にない。


彬が側に居てくれさえすれば、何もいらないのだ。



「考えとけよ。どんな我儘でもきいてやるから。」



「ホント?」


「あぁ。何でもいい。いくつでもいい。お前が望むもの、俺にできることならなんでもしてやるよ。」

こんな風に言われたのは初めてだ。

でも、欲しい物なんて何もない。

行きたいところなんて彬の側しかない。


このはは立ち止まり、何と伝えようか悩んだ。



「どうした?」



彬も立ち止まりこのはを見る。




「あ…彬ちゃん…。あのね…」
「なんだ?」


このはの頬に彬が触れる。



「アタシ…彬ちゃんが、、、」


声が小さくて聞き取れない。

彬は苦笑いすると腰を屈め上体を折り、このはの口元に耳を近付ける。



「なんだ?聞こえないぞ。」


このはが真っ赤になる。


「彬ちゃんが欲しい。」




恥ずかしくて消えたい。




でも言わないと伝わらないから…。



何もいらない。

彬がいればいい。

ただ、それだけ。




「承知。」



不敵な笑いをうかべ、短く返事をしてきた彬に、このはが不安を覚えたのは言うまでもない。



< 28 / 37 >

この作品をシェア

pagetop