スキというキモチのカタチ。
「あー、えーと。仕事あるから長話はムリなんだけどさ、彼氏に立候補って話マジだから。考えといて。」




胸のポケットから名刺を差し出す茅部さん。

「裏にメアドあるから、暇な時にでも連絡して。」


ニコリと笑ってカウンターへと戻って行く茅部さんの後ろ姿をぼんやりと眺める。



…………。




「えー⁈」



なんでなんでなんで⁈

イケメンマスターの突然の告白にアタシのテンションがいきなりMAXまで上がる。


「だから言ったでしょ?
このはは可愛いのよ。だからもう少し周りを見なさいよ。
必要としてくれるひとがいるかもでしょ。」



「いやいやいやいや、ないないない!
茅部さんてめちゃくちゃモテるじゃん!
そんな人と恋愛とかムリだしー‼」




今絶対真っ赤になってるー‼




ってくらい興奮状態。


「モテる男はダメとかいうの⁈
じゃあさ、このはの大好きなお隣さんはモテないわけ?」




………。





「めっちゃモテる………。」




「でしょ。じゃあ拒否する必要なんてないじゃん。
てかさ、マスターなら誠実そうじゃん?
あたしはこのはのだーいスキなお隣さんを見たことないからわかんないしー。
ケチなこのははお隣さん見せてくんないしー。」



口を尖らせてブチブチ文句を言う美来に渋々スマホを差し出す。




「ん?」


「ん‼」


フォルダに大切にしまってある彬ちゃんの写真を見せる。


暫くの間食い入るように見つめていた美来がぽつりとつぶやいた。


「このはってメンクイだわ。」


…だからモテるって言ったでしょ。


心の中でぶつくさ言い返すものの、あまり人には見せたくなかった写真をしまう。


「それ、最近の写真?」

「あ、うん。半年くらい前かな。
嫌がるから隠し撮りみたいにして撮ったの。
気付かれてすんごい怒られたけどね…。」



スマホの中にいる彬ちゃんは、少し俯いた感じで新聞を読んでる。

休みの日に朝から押しかけて無理やり撮ったんだよね。


暫く口をきいてくれなかったっけ…。


おばさんから『減るもんじゃなし、いいじゃないの!』とか言われて消去を免れた大切な写真。

アタシの宝物。



「人からさ、好かれて愛されていくとね。
女の子は綺麗になっていくんだよ。
このはは元々小動物系で目が大っきくて可愛いじゃん。
何より羨ましいのがその唇!
ぷっくりしててさー、色っぽいというか…誘う感じがするんだよねー!」



美来は一気にそう言うと、カクテルを飲み干す。

少し赤い頬を抑えてこちらを見て、ふふっと小さく笑う。


「真っ赤。
このは、充分かわいいよ。
自信持ちなって。
足りないのはこのはじゃなくて、お隣さんの方。」


「彬ちゃん?」

「うん。あたしはそう思うよ。」



どうなのかな。

いつも自分に何か足りないとばかり思ってたから、そう言われてもピンとこない。



「まわりに目を向けたら意外と運命の相手は側にいるのかもよ。」



真面目な顔をして美来が言う。



考えた事などなかった。

小さい時から彬ちゃんしか居ないと何故か思っていたから。

スキだから、振り向いて欲しい。

スキだから、側に居て欲しい。


毎日のようにそう思っていたから、周りなんて見てこなかった。



「身近にいるのかなぁ。
彬ちゃん以上にスキになれる人。」


ふーっと長く息を吐き出す。



いい加減潮時なのかもとは思っていたけれど。


「急ぐ必要ないよ。
ゆっくり周りを見るといい。焦るとキモチを勘違いしちゃうし。」



美来に話を聞いてもらってよかったのかもしれない。


ツキモノが落ちたみたいに、なんだか新しい自分を発見出来そうな予感がした。










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