サンドリヨンは微笑まない
どうしたのかと首を傾げていると、
「この鍋ってここだっけ?」
とパスタを茹でる為に使ったのであろう鍋を片手で上げる。
「ううん、鍋はフライパンの所だから左の扉」
こっち、と左の扉に近付こうとした瞬間、足を近くのキャスターにぶつけて転んだ。
ただ転んだだけじゃない。
転倒する直前に、遼が受け止めてくれようとした。
そこで、唇が遼の唇を掠める。
ガッターンと、あたしだけが転んだ。下の階の人、驚いてるだろうな。
謝りにいくより先に、あたしは顔をあげられない。