*Pure love*

授業は散々だけれど、部活に変化はなかった。…まぁ唯一あるとするなら、花香が付き合い始めたことで男子の大多数がショックをうけていたけど。

そのことが噂で広まったらしく、

「おい、佐藤!望月が付き合い始めたってマジか!?」

「うん、本当」

聞いてきた男子が多数いて、みんなにこう返したら呻きながら去っていった。

「杏樹、早く行こうよ」

最近男子が働かなくなったから大変だ、と呟く花香に、いや多分それ花香が原因だと思うよ、と心の中で突っ込んだ。

台を出して基礎練習をして、その後は筋トレのメニューになった。
腕立て伏せ、腹筋、背筋等々をやって休憩時間。じめじめしているから、すぐだらだらと汗が流れる。
水筒を開けて、喉の奥を潤した。

その時

「よぉ、望月」

卓球部の『ちょっとおふざけ気味のウザイ男子』の位置の藤堂が、私たちの近くにやってきて言った。

「お前さ、最近サッカー部の谷野と付き合い始めたんだって?」
明らかにからかう口調になっていて、花香を軽くキレさせるには十分だった。

「それが何かあなたに関係あるわけ?」

答えたことに調子に乗ってさらに藤堂は続ける。

「幼なじみなんだって?ひゅー、妬けるね。あのひょろっとした僕っ子のどこがいいんだか」

あっ、地雷踏んだ。程なく花香が戦闘モードになる。

「あんたなんかみたいな奴にわかってたまるか。郁馬は文句の付け所がないわよー、あんたとは違って。あーそうそう。それよりもそちらの方は大丈夫なのかしらね?」

いきなり矛先を向けられたことに驚いたようだ。

「なっ何がだよ?」

唇の先をきゅっと上げて、花香は続ける。

「コーラス部のあの子とのことよ。…あら?あたしが知らないとでも?色々噂は聞いているわ。なんか最近仲悪いらしいじゃない?」

いつもと口調を違えて、さらさらと言い放つ花香は十分怖かった。

「なっ…!おっお前には関係ねぇだろ」

「そうよー、関係ないわ。だから、当たり前だけど私のことも関係ないわよね?お互い様ってことで、もうこの件は口に出さないでくれる?」

尋ねる風だが、肯定しか許さない物言いで、花香は十分怒っているのがわかる。

花香はしばらくじっと睨み付けていたが、ふいっと向きを変え、去っていった。私も後を追う。

郁馬と付き合っても、やっぱり花香は花香だった。
***

「…ねぇ杏樹」

「なに?」

先を歩いていた花香がペースを落とした。

「サッカー部にもさ、藤堂みたいな奴っていると思うんだよね。それで…もし…もし同じようにからかわれたら…」

郁馬は私のこと嫌になるかなぁ?と小さく言った。
いつも強気なのに郁馬が絡むとてんで弱くなるなぁ、と微笑ましいのは置いといて。

「大丈夫でしょ?生まれた頃からの知り合いなんだから花香の影響力は重々承知してるよ。それに見た目より郁馬が強いことは何より花香が知っているでしょ?」

頭をポンポンと叩く。

「それよりそろそろ休憩終わりだよ」

行こっか。花香の手を引いて歩き出す。

後ろで小さく、杏樹ありがと、と花香が呟いたのが聞こえた。

next…
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