*Pure love*

 またゆっくりとした速度で歩き出す。
 手に新しく持った、すみれ色の水滴がついたヨーヨーは、お祭りの灯りにキラキラと光って、まるで大粒の宝石の様だった。

「何やってんの、杏樹。そろそろ花火の時間だよ」

 花香が前から駆け寄ってきた。そのままぐいぐい引っ張って走り出す。

「ち、ちょっと、どこ行くの!?」

「いいから来て!今ならまだ間に合うし」

 織本くんは走れるよね、後ろを振り向かないまま言ってさらに加速する。
 公園を出て、近くの神社にある階段をかけ上がる。登りきった先には

「どう?すごいでしょう?」

 呆気にとられた様子に花香がふふっと笑った。
 
 そこはお祭りの灯りがよく見える、ちょっとした高台のような場所だった。

「さらにすごいのはここからだよ」

 腕時計を見て、そろそろかな、と呟く。
 そして大きな音をたてて一発目の花火があがった。
 まわりに高い建物がないので、まるで目の前にあるように見える。
 思わず、歓声をあげた。

「近所の清田さん家のおばあちゃんに教えてもらったんだ。今じゃ穴場なんだって」

 花香が自慢気に話す。
 みんな花火に目がくぎ付けになっている。
 そっと織本くんの横顔を覗く。花火で照らされた顔は楽しもうに微笑んでいた。

 好きって言えないけど,これからもそばに居て織本君の笑顔を見たいな。
 誰にともなく心の内でそっと願った。

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