*Pure love*
八章 青天の霹靂
夏休みも箱根も終わり、二学期が始まった。
一学期と比べてイベントが盛りだくさんなので、みんなちょっとウキウキしている。
私も、休み明けテストが終わって、さて楽しむかという気分になっていた。そんなときだった。
***
九月もあと少しで終わる、その日は掃除当番だった。教室掃除を花香や織本君たちとやる。ゴミを捨てにいった帰り、クラスメートの岸妙ちゃんに呼ばれた。
「杏樹ちゃん、お願いがあるんだけど」
ちょっとこっちと手招きされて、階段の下の目立たないところに連れていかれる。
妙ちゃんは、しばらく手持ちぶさたに持っていた箒を振っていたが、それをピタッと止めてこちらを見た。…といっても身長差で見上げられる形になるのだけれど。
「あの…えーと…これ…」
渡されたのは手紙。うっすらピンクがかった封筒がそれっぽいと感じる。多分、渡してくれという依頼だろう。
「その…これ…織本君に渡してほしいんだ」
あげられた名前に、電撃をうけたように固まる。
「本来なら私が渡すべきなんだけど…ごめんね、勇気がでなくて。杏樹ちゃんはよく話してるから」
申し訳なさそうにうっすら涙ぐみ頭を下げる妙ちゃん。
しばらく迷った。妙ちゃんは悩んで悩んで頼んだに違いない。色々考えた。
「……………わかった」
妙ちゃんが頭をあげる。
本当の本当は、渡したくない。もし渡しても織本君が断る可能性もある。でもそんなのは関係なくて。
ただ心の中で想っている私よりも、ちゃんと行動して伝えたいと思っていることに…完敗だった。
それに,織本君がOKを出すかどうかなんてわからないし,とひどいことを考えている自分もいた。でもそう考えないと,私の手から渡すことなんてできない.
「渡しとくよ。…なんかよく話す男子に渡すってちょっと勇気いるなぁ」
冗談めかして言うと、やっと笑ってくれた。
最後に妙ちゃんは、ありがとう、とペコリ頭を下げて、掃除場所に帰っていった。
***
「織本君、ちょっと来てもらってもいい?」
帰る前、手招きして織本君を呼ぶ。こういうのは早く渡しておくべきだ。
「どうしたの」
不思議そうな顔をしてきた織本君に横を向いて手紙を出す。
「え…これ…?」
戸惑った様子にそっぽを向いたまま答える。
「岸妙ちゃんから。渡してって頼まれた」
あまり話さないように心がけながらさらっと言う。
岸…さん?織本君は驚いたような声をだした。
「そうなんだ…あ、これありがとうね」
焦ってお礼を言う様子に、ちらっと顔を窺うと幸せそうに笑ってた。
えっ……。
気のせいだと思いたかった。ちょっとだけ頬が赤かったその顔を。
「じゃあ、また明日ね」
手を振って笑顔をつくる。少々強ばった気がしたが、織本君は気に止めず、また明日、と走り去った。
***
次の日、学校に来てすぐに,妙ちゃんに渡したことをいった。
「本当!?ありがと!」
嬉しそうな様子に、これでよかったんだと自分を納得させる。そう…これでよかったんだ。
しばらくして、登校してきた織本君とはその日、目を合わせることはできなかった。