*Pure love*

 ***

「あー!!寝坊したー!!」

 妙ちゃんに手紙を渡すのを頼まれて、一週間ちょいたった後。
 その前の日の晩は再放送の人気番組があって、見すぎてしまい、いつの間にか意識が飛んでいた。

「杏樹!今日、学校だったの?」

 お母さんが用意してくれた朝食を半分以上残す。

「傘、忘れないでねー」

 お母さんに言われて傘を掴んで、慌てて家を出た。
 空は雲が広がり、今にも降ってきそうだった。

 腕時計を確認すると、なんとか間に合う時間。

「あぁ、よかった」

 安心しつつも、歩調は緩めず駅に向かった。
 いくら間に合うといったってギリギリなので、できるだけ階段に近い出口の乗り場を選ぶ。
 そんな条件なので、そこにはもちろん私の学校の生徒が多い。電車に乗り込むのにも一苦労だ。

「えっ、そうなの?初耳!」

 聞き覚えのある声がした。この声は…辺りを見回すと…いた!織本君がちょっと先のほうにいるのが見えた。
 声をだそうとした瞬間、

「そうなんだよ~意外でしょ!私もビックリしたんだ」

 …妙ちゃんの声がした。
 見ると、妙ちゃんと織本君が仲良く二人で談笑していた。

 背筋がすっと冷えた。

 この時間に、二人で一緒に登校していて、しかも仲良く話しているっていうことは…いうことは…。

 断言するのが怖くて、二人から目を背ける。
 
 電車がつくと、走って二人から逃げた。後ろからおはようと声をかけられないように、それで、二人揃って笑いかけられないように。

 ***

 学校には余裕で間に合った。先に来ていた花香が不安そうにしてきたので、寝坊したことを説明したが

「そういう事じゃなくて!」

 眉をきゅっと潜めて強い声をだした。

「顔色すごく悪いよ。何かあったの?」

 自分ではわからなかったけれど、顔面蒼白らしい。花香には寝不足じゃない?と誤魔化しておいた。

 その後、織本君と妙ちゃんが登校してきて、チャイムが鳴り、授業が始まった。

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