*Pure love*

 その時。階段を上って来る音がした。ビックリしたけれど、隅に移動することも出来ず、体育座りをしている手をぎゅっと強くする。そして、顔を沈めた。

「あ、佐藤」

 頭上からかかった声に顔を上げると、桜田君だった。

「あ…ごめん。取り込み中だった?」

 顔を窺う様子に、自分が泣き張らした顔だということに気づく。慌ててハンカチで涙を拭いた。

「ごめんね」

「いや、いいんだけど」

 桜田君が横に座った。

「どうかした?」

 何気なく聞いてくるところに救われる。誰かに聞いてほしかったのもあったかもしれない。自然に口が開いていた。

「……あのね、織本君が…妙ちゃん…岸さんと付き合い…始めたんだって」

 つっかえながら説明すると、桜田君の表情が固まった。何も言わないのがありがたい。

「先週かな….岸さんに頼まれてラブレター代わりに渡したの.そしたらさ,今日二人に織本君がそれでOKしたって聞かされてさ」

 はぁ,と思わずため息が漏れる.

「結局、全部私のせいなんだ。好きって言えなかったのに、友達の告白を手伝ってるし。バカでしょ」

 口調は自嘲気味だけど、頬を伝う涙は止まらなかった。自分で言った言葉にさらに傷つく。

「はぁ、自分に呆れちゃうや」

 ごめんね目の前で泣いてて.桜田君に笑いかける。

 何故か息が止まるような顔をして、下を向いた。

次の瞬間。

桜田君が目の前から消えていた。

「え?」

手を後ろにまわされ、ちょっときついくらいに抱きしめられていた。

数秒間、私の思考回路が一気に停止する。少しして回復したものの、ど、どうすればいいの!?

暫くして、織本君が私を放した。

「本当は言うつもりなかったんだけど…俺、佐藤のこと好きだから」

えっ、耳を疑う。これって、告、白?

「でも、でも私…」

「晃太のこと好きなのは前から知ってる。ゴールデンウィーク明けくらいからだろ」

ずばりと言い当てられてまた驚く。そんなに前から気づいてたの?

桜田君は下を向いて続ける。

「でも、晃太が佐藤のこと泣かすの見てられない」

静かに雨音だけか響きわたる。

「別に、今告白したからって付き合ってくれって訳じゃないから。ただ、俺の気持ちとして」

そこで顔を上げて、私の顔を見て、ふっと笑った。

「ほら、もう涙止まってる」

言われて頬を触ると確かに涙は止まっていた。

「そろそろ行けよ。怪しまれるだろ」

じゃあな、くるりと後ろを向いて、桜田君は走り去る。

ザー。私は雨音の中、その場に立ち尽くしていた。
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