*Pure love*
十章 私が好きなのは…
織本君は、妙ちゃんの事がなかったかのように明るく振る舞っていた。
授業中の笑いをさそって、雰囲気を明るくする。
事情を知っているみんなも、明るそうな様子に安心して笑っていた。
でもどこか陰った部分がまだ大きいことには、多分私と花香、桜田君、郁馬しかわからなかった。
***
「えいっしょ.…ふぅ.重い」
ある日,委員会の荷物を運ぶのを任せられてしまい,段ボールを持ちながら廊下を歩いていた。
「あれ?佐藤さん?」
何とか振り向くと,織本君が立っていた.
「織本君,どうかしたの?」
「ちょっと野暮用があって.ってそれよりその荷物!重くないの?」
「え?…重いよ」
「手伝うよ,貸して」
手を差し出されて戸惑う.
「え,別にいいよ.これだけだから」
「力仕事は男がやればいいの!」
ほとんど横取りされたような形で私の目の前から荷物が消えた.
「どこまで?」
「あ,生徒会室まで…」
了解.言いながら荷物を持ち直す.
「え,えっと…ありがとう」
顔を覗き込みながらお礼を言うと,少し驚いたような顔をして,どういたしまして,と笑った.
一緒に生徒会室に向かいながら,やっぱり織本君は優しいな,なんて思っていた.
***
「これ休み時間の間に、桜田君に渡しておいてくれる?」
またまたとある日、先生から渡されたのは、細長い封筒だった。
「これから先生、緊急の職員会議が入っちゃって」
頷くと、ありがとうと言いながら先生は小走りに去っていった。
とりあえず、織本君に話しかける。
「ねぇねぇ、桜田君どこか知ってる?」
「え、京太?…多分、体育館じゃないかな。忘れ物したって言ってた。どうかしたの?」
「ちょっと先生から頼まれちゃって渡さなくちゃいけないの」
渡しておこうか、と申し出てくれたけど断って体育館へ向かった。
教室棟から体育館までは少し距離があるし、休み時間もそれほど長くはないので小走りになる。
廊下を曲がって入り口に着くと、外に置いてあるグラウンド用の体育倉庫の前に立っているのが見えた。
「あっ、桜田く…」
声をかけようとして止まる。
一人だと思った物陰にはもう一人、女子の制服をきた人がいた。
それとなく身を隠して様子を伺う。
近くで見たら、三年生らしいことがわかった。
「あのね、桜田君」
ややハスキーな声が特徴で目立つさらさらヘアの、顔立ちが整った先輩。
「よかったら付き合ってほしいの」
思わず身を固くした。
容姿に自信があるからか、おどおどすることなく、はっきりと言う。
桜田君に気づかれない様にその場を離れた。
「あれ?その封筒って何?」
急に話しかけられて、驚いた。花香は私の手の中にある封筒に目を止めている。
「え…あぁ、うん。桜田君のなんだけど、見当たらなくって。まだ時間あるし、帰ってきたら渡す」
その後、程なく桜田君が帰ってきたので封筒を渡した。
中は休んだ時のプリントらしく、サンキュ、と嬉しそうな様子を見ながら、さっきの返事はどうだったのかな、と考えてしまっていた。