*Pure love*
「杏樹ならすぐにできるよ.きっかけがないだけで」
丁度そこで電車が止まり,大勢の人が一気に乗り降りする.
いつもなら,どこかにつかまってやり過ごすのだけれど,話題が話題だっただけにつかまるのを忘れていて,気づいたら人ごみに流されてプラットホームまで出る寸前だった.
「ちょっと!すいません!」
声は空しく通るばかりで,誰も振り向かない.そして
「わっ!」
ホームに転がり落ちた.しかも荷物がぶちまけられたというおまけつきで.
慌てて物を拾っていると,側にいたサラリーマン風の男性が拾うのを手伝ってくれた.
大抵のものを拾い終わったところで,別の背の高い人が
「これも君のじゃないですか?」
拾い残していたものを電車から降りて渡してくれた.
「ありがとうございます」
二人にお礼を言った直後,ガシャン,と音がして背後で電車のドアが閉まる.
「あぁ・・・」
花香を乗せた電車は止まることなく行ってしまった.幸いにもいつもより早い電車だったので,遅れる心配はないが,次の電車まで三十分.一人ぼっちはキツイ.
ため息をつく私の横で
「あぁ,行っちゃったか」
声がしたので振り向くと,さっき電車の中から出てきて渡してくれた人だった.よく見たら同じ学校の男子の制服を着ている.
「ごめんなさい!私がうっかりしていたばかりに電車遅らせてしまって!」
「えっ?・・・あぁ,別にいいよ.困っている人見ると,反射で助けちゃうんだ」
だから頭あげて.言われてあげるとその子の顔をよく見る形になった.どこかで見たような・・・.
「じゃあさ,お詫びってわけじゃないけど,俺の話し相手になってくれない?ちょっと暇だからさ」
断る理由もないので頷く.
男の子は,あっそうだ,と呟いた.
「まず,自己紹介しようよ.俺,織本晃太っていうんだ.君は?」
「わっ私は佐藤杏樹です」
織本君,口の中でつぶやく.織本君も,佐藤さんね,と確認して
「とりあえずベンチに行かない?たったまんまだと疲れるから」
提案してきた.
二人でベンチに座っておしゃべりをする.
「佐藤さんって何年生?」
「今年で二年生です」
「あっ,俺と一緒だ」
「そうなんだ.三年生かと思った.背高いんだね」
「まぁ,ちょっとコンプレックスだけどね」
「えぇー背が高いのって羨ましいけどな」
話しているうちに緊張が解けて普段の口調に戻っていた.さっきまで知らない人なのに,普通に友達みたいに喋っている,と思うと変な感じ.
「そういえばさ,何部なの,佐藤さんって?」
「わたし?卓球部.織本君は?」
「俺はサッカー部」
それを聞いて思い出した.この人,前に桜田君と互角に戦っていた人だ.
「あっ,来た」
そこで電車が着て,おしゃべりをしながら乗り込んだ.