*Pure love*
二章 とある日の出来事
この学年が始まって二週間くらい過ぎた.
部活では後輩の指導とか,大会への準備とかで忙しい.授業も担当の先生が変わって,苦戦しながらもがんばっている.
「疲れたー」
家に帰ってくるなりベッドに倒れるのもすでに日課となりつつある.
「…それじゃあやるか…」
ルームウェアに着替えて机の上に学習教材を出した.
二年生になってから数学の授業のスピードが速くなって,毎日復習しないと追いつけなくなってしまったので,文字がずらっと並んだ問題集を開いてやり始める.
しばらくシャープペンシルを動かす音だけが部屋に響いた.
「よし,今日の分終わり」
問題集を閉じて,明日の準備をしていると,机に置いていた携帯がメールの着信を告げた.誰だろ?
パカッと開いて受信ボックスを見ると花香からだった.
『杏樹,今外出られる?
ちょっと相談したいことがあるんだけど』
時間は七時を回っている.時計を確認して花香らしくないなと首をかしげた.
明日休みでもないのにこんな時間に呼ぶなんて珍しい.
『大丈夫だと思うけど…
どこ行けばいいの?』
返すとすぐに返信がきた.
『もうすぐ杏樹の家の前に着くから,とりあえず出てくれる?』
何なんだろ.ルームウェアからジーンズとTシャツに着替えてパーカーを羽織る.ポケットに小銭入れを入れておいた.
玄関で靴を履いていると
「杏樹,どこか行くの?」
お母さんが後ろから声を掛けてきた.
「ちょっと花香に会ってくる.すぐ帰ると思うよ」
花香と聞いて,気をつけなさいよ,とだけいってお母さんはキッチンに戻った.
ほんのりといい匂いがしてくる.今日はハンバーグかな.
「いってきまーす」
外に出ると,花香は表の道に立っていた.
「ごめん,急に呼び出して」
やや伏し目がちなのが気になる.
「どっか行こうか.ここじゃ話しにくいでしょ」
花香はそのことに今思い至ったようで,
「あ…そうだね」
じゃあ,と私は花香の家の方を指差した.
「向こうの公園にする?」