*Pure love*

 公園に着くまで,花香は一言もしゃべらなかった.

通りに面したベンチに腰掛ける.

近くにあった自動販売機でホットココアを二つ買って渡した時にやっと,ありがとう,と笑った.

四月の夜はまだ少し寒くて、暖かい飲み物がありがたい.

 少し冷えた掌の中で熱い缶を転がす.花香も手の中でコロコロと動かした.

「…それで相談って?」

 なかなか話しださないのでこちらから促す.

花香が転がしていた手を止めた.

「…あのね」

 それでも勇気が足りないらしく,一回息をついてきつく缶を握り締める.


「…郁馬に告られた」

 えっ?思考回路が数秒止まった.

「郁馬?っていうか告られたの!?」

 花香は顔を赤らめながら続けた.

「あの今日の帰り,杏樹いなかったじゃない?んで,郁馬と丁度会ったから一緒に帰ったんだけど,その…帰り道に…い,家の前で」

「告られたわけ?」

 うん,とさらに真っ赤になって小さく頷く.

「その…ま,前から好きだったって」

「うわ,妬ける〜.…そんで返事したの?花香も昔から好きでしょ,郁馬のこと.小学校のころからだっけ?」

 顔を沈めながらこくこく頷く.

「夢みたいで…まだ返事してないの」

 明日返事しようと思ってるんだ,ぼそぼそ言う花香はとっても可愛かった.

 わかった.呟くと花香がこちらを向いた.

「明日返事しなよ,絶対」

 花香は照れくさそうに頷く.

 気がつくと,ココアは掌に熱を奪われ,すっかりぬるくなってしまっていた. プルタブを開けて茶色く甘い液体を流し込む.砂糖は甘すぎるくらいだったが,今の私にはちょうど良かった.

「それじゃあ帰ろう.明日学校あるしね」

「そうだね.…あっ,数学やらなくちゃ!杏樹はやった?」

「花香に呼ばれる前にね.今日の結構簡単だったよ」

「そっか,私もがんばらなきゃね」

 またね.花香の家の近くに来たので,花香に手を振って自分の家に向かって走る.

「ただいまー!」

 家の中には美味しそうなハンバーグの匂いが漂っていた.


next…
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