*正しい思春期の切愛理由*


バットの芯に当たったボールは、そのまま吸い込まれるように太陽めがけて飛んでいった。

カキーンと奏でられた高音が、頭の中で冴え渡るように響く――

そして俺は我に返った。


「……」


立っているのは自宅の洗面所前。


閉ざされたドアのノブに手をかけたままぼけっと突っ立っていた。

向こう側から土砂降りみたいな水音が聞こえている。


何……やってんだ俺は。



洗面所の向こう。誰かがフロに入ってる。

誰か、なんて言って、そんなの分かりきってるけど。


父親はまだ帰ってきてないのだから。



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