*正しい思春期の切愛理由*
気持ちを伝えないまま、その場の勢いでしたキスを、一歌はどう受け取ったのか。
今朝からそのことばかり考えて、なんの結論も打開策も浮かばないまま下校時刻になった。
こんな日に限って塾はなく、まだ太陽の光が衰えない時間に帰らなきゃいけない。
いったいどんな顔して家に入ればいいっていうんだ。
散々悩みながら帰宅すると、一歌は制服のまま台所に向かっていた。
「み、ずき」
俺に気付いて振り返った顔は、あからさまにこわばっている。
「……ただいま」
固まる空気の中、いつものように冷蔵庫に近づいて牛乳を取り出した。
下校途中の陰鬱な気持ちと、一歌のぎくしゃくした反応が、かえって俺に普段どおりの行動を取らせる。