真夜中の足音(中編)
陽子は、足を引きずりながら、リビングからキッチンに走る。
そして、洗い場の下のトビラを乱暴に開け、トビラに備え付けの包丁入れから、しばらく使ってなかった包丁を抜き取る。
そして、包丁を片手で握ると、リビングの入り口に向ける。
丸山は、ドアを最小限だけ開いて、身体を細くし、蛇のようにニュルっとリビングに入り込むとそのままドアを閉める。
そして、首だけを回し、部屋の中をグルッと見回す。
「立派な家ですねえ。私の子供の頃に住んでた家より良い家ですよぉ」
最後には、陽子のいる台所に顔だけ向ける。
そして、包丁を向ける陽子を見て、ニカッと笑みを浮かべると、両手両足を規則正しく動かしながら、キッチンに向かってくる。
徐々に近付いてくる丸山。後ずさりする、陽子。そうするうちに、陽子の背中が壁に付く。陽子は、壁に身体を預けると、両手で、包丁を握りなおした。
「それ以上、こないでください!」
自分でも驚くくらいの大きな声。
「傷害未遂ですよぉ~。逮捕しちゃいましょいますよぉ」
丸山は、一向に介さず。むしろその状態を喜んでいるようだった。