真夜中の足音(中編)
「それ以上近付くと刺します!」
陽子と丸山の距離は、2mほどに縮まっていた。
「ンフ~~~~~~~~~~~~~~フ。本当に危ないですよ。ホラ、そんなものはしまって、私と仲良くしましょうよぉ~ん」
陽子は、その声が耳に入って無いのか、丸山の胸元を凝視していた。それは、自分がこれからどうすべきかを自問自答しているようだった。
丸山は、その様子を感じ取ったのか、刃先との距離が10センチほどになった時に、立ち止まった。
陽子は、一瞬、ホッと息を吐いたが、再び包丁を握りなおす。
ぽと ぽとぽと・・・。
水滴が落ちる音。何事かと思って、陽子が視線を上げると、丸山の瞳から大量の涙が流れていた。
「あなたも・・・。私を必要としてくれないんですねぇ・・・」
ウゥッ ウウウッ。
丸山は、声を上げて鳴き始めた。