真夜中の足音(中編)
丸山は、そう言うと、急に陽子に近付いた。

「ヒィッ」

 グッ  ググッ


包丁の刃が、丸山の身体に刺さる感触が柄を伝って陽子の手に感じられる。

しかし、丸山は、気にせず陽子の肩に手をかける。

「イヤー!!」

とうとう、恐怖のあまり陽子は、包丁から手を離してしまった。

カーンと、包丁の柄が床に当たる音が響く。

丸山は、そのまま陽子に馬乗りになり、陽子は、足をバタバタさせるくらいしかできなかった。

「大丈夫ですよ。簡単には、殺しませんから。時間をかけて儀式をするんですぅ。ねぇ、お母さん」

丸山の顔は、初めて見た時とは完全に別人だった。

恐怖に押しつぶされながら、さっき丸山が、「あなたも」と言ったのに陽子は気付いていた。
きっと、自分以外にも手にかけたんだろう。
この人が、連続通り魔だった。
さっき、陽子をつけていたのも、そして、偶然を装って助けようとしたのも。

あぁ、でも、私は、もう殺されるんだ。

陽子は、自分に起こった不幸を受け入れようとした。
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