わがまま姫♀
「田辺の好きな奴って?」
「姫央さんだよ」
…やっぱり。
アイツ、本気だったのかよ。
「ねぇ、あれ姫央さんじゃない?」
千果が指差す方向に目を向けると、3階の一番端っこの教室の窓から人影が見える。
目を凝らしてよく見てみると、間違いない。
あの華奢な後ろ姿。
「…アイツ」
なんであそこに?
俺たちの教室はもう1つ下の階。
あの教室…。
「潤先輩のクラスだ」
千果がそう言った瞬間、俺はいやな予感がした。
「…悪い千果。忘れ物(あいつ)取りに行ってくる」
それだけ言うと、俺は走り出した。
後ろから千果がなにか言ったけど、そんなの今は耳にも入らない。
別になにかが見えたわけじゃない。
ただあの教室が、田辺のクラスだってだけ。