わがまま姫♀
「…こそこそなにかしてると思ったら」
そうため息混じりに言うと、流は前屈みになり、髪の毛をクシャクシャと頭を抱える。
「…姫央ちゃん。流を待ってやってはくれないか?」
龍一さんが、放心状態に近いあたしを真っ直ぐに見る。
………。
あたしは何も言えなかった。
「はい」だなんて、簡単には言えなかった。
「…ちょっと、落ち着かせた方がいいかな」
無理に笑顔を作った顔でお父さんがそう言うと、両親達4人はリビングを静かに出ていった。
お父さんお母さんも、あたしの為に辛いって思ってくれてる。
「「………」」
流は1週間後、あたしの隣からいなくなる。
現実だなんて思えなくて。
いなくなる実感なんて全然なくて。
だけど、いつかはこんな事になるんじゃないかって。
結婚するのが、そんなにも簡単な事ではないんだって。
少なからず、あたしは分かってたんだ。
その現実が、あたしの胸をギリギリと締め付けた。
2人っきりになったリビングは、ひんやりと冷たい空気が流れる。
「……いつか、こんな日がくると思ってた」
その空気の中、先に口を開いたのは流の方だった。
あたしがなにも喋れなくなってるのを、分かってるんだ。
ねぇ、これが社長になるってことなのかな?