もう少しだけ、あなたのそばに
大学から真っ直ぐ帰ると、マンションの前に人影。
その姿には見覚えがあった。
私の姿を見つけると凄い形相で睨んでいる。
高いヒールをコツコツと大きな音を立てて私の目の前まで来ると、その迫力に思わず後ずさる。
「あなた、何時まで彼に迷惑かけるおつもり?」
その自覚はあった。
あったけど何も出来なかったから、彼女のこの質問に、「朗に何かありましたか?」なんて素っ惚けたことを聞くわけにはいかない。
「忙しい彼の邪魔をするのはいい加減にお止めなさい。
あなたはただ、彼の足を引っ張っているだけよ。私なら、彼の為に力になれる。
だけど、あなたは邪魔しか出来ないじゃない。
彼の為にも会社の為にも、あなたは早く彼の傍を離れるべきよ。
あなたに出来ない事が私には出来るんだから!」
最後は言い捨てるようにして帰って行く彼女の後姿をしばらく、私はその場でボー然と眺めていたような気がする。