もう少しだけ、あなたのそばに
エレベーターの前まで進んでいた秋がフッと振り返り、視線をこちらに向けた。
すると、なぜだか、みるみるうちに顔が不機嫌になって、
「花憐、来なさい。」
とこれまた、低い声で呼ばれた。
きっと、私がすぐそばにいると思っていたのに、ダラダラとしているから怒っているんだ。
いくら、いつもどおりって言われても、ここは会社。
私は、慌てて秋の元へと走り寄った。
「すみません。」
頭を下げると何も言わずに私の腰に手を回し、エレベーターへと進んだ。
エレベーターにも他の社員さんたちが一緒に乗り込むと思いきや、エレベータに乗ったのは、秋と私と島津さんだけだった。
他の社員さんたちは、エレベーターの前に深々とお辞儀をして私たちを見送っていた。
エレベーターが動き始めてすぐに、島津さんが口を開く。
「常務があんなにヤキモチ焼きだったとは存知あげませんでした。」
と笑っている。
それに不機嫌な顔をした秋が、
「うるさい。島津、気安く、花憐に触れるな。」
まだ、笑いが止まらないらしい島津さんは、その視線を私に向けて、
「花憐様も大変ですね。」
と言う。意味の分らない私は、
「あの、どういうことでしょう?」
「先ほど、わたしくめが花憐様の腰に手を添えていたのが、大変気に入らないらしいですよ。」
と教えてくれた。