Moon_and_sun
正体
***
Date;【人狼】
狼男、ワーウルフなどとも呼ばれる。
普段は人の姿をしており、基本的には見分けはつかないが、変身能力を保持しており狼の姿になることが可能。
例外として、満月の夜は人間の姿に戻れなくなったり、新月の夜は狼に変身できなくなったりするといった事例も報告されている。
普通の人間よりもはるかに高い身体能力を持ち、最盛期には吸血鬼に並ぶほどに恐れられた。
現在では純粋な人狼は確認されておらず、人間との混血が数名登録されているのみとなっている。
また、その殆どは人間との交配の末、人狼としての能力は低下、または無力化されている。
しかし、ごくまれに人狼としての血を濃く受け継ぎ、人外の身体能力および変身能力を備えている者が現れる。
こういった者の中には、人間に対して好意的な者が多いため、上記の者同様、危険視する必要はない。
(協会内データベースより抜粋)
「はぁ、はっ…はぁ…っ」
そろそろ夏が近付き始めた日差しに汗が滲んで、息が上がるのも構わず、綾は走る。
『あれー?この前の…綾ちゃん、だっけ?』
街中で声をかけてきたのは、この間美波の家で出会った怪しいあの男だった。
――なんで…なんでっ?
後ろを振り返っても、追ってきている様子はない。
それでも不安に駆られ、足は止めないまま見知った小さな診療所まで走ってきた。
「は…はぁ、はぁ…っ?」
診療所のガラス製の自動ドアまで辿り着くと、綾はようやく立ち止まる。
――あ、れ…?
視界がぐらぐらと揺れ、膝が震えて足に力が入らない。
手足の指先はみるみるうちに冷えていくのに、こめかみを冷たい汗が伝い落ちていく。
視界が真っ白に染まっていき、平衡感覚がなくなる。
せり上がってくる吐き気に立っていられなくなった綾は、思わず壁に手をついた。
最後の力を振り絞ってドアをくぐると、ひんやりと冷房の効いた待合室のソファーに先客がいた。
***
「…ん」
「綾?起きた?」
微睡んでいた意識が聞き慣れた低音に浮上する。
声のほうへ視線を向ければ、怒ったような困ったような顔の高瀬がいた。
「たかせ、さん…」
「貧血と軽い脱水症状。いきなり倒れたからびっくりした」
ほら、とコップを差し出されて、綾は体を起こす。
コップの中のスポーツドリンクを数回に分けて飲み干した。
ふう、と息をつく綾を見て苦笑しながら高瀬はベッドの端に腰かける。
「まだ飲む?…てか、お前なにしに来たの?」
「え?…あっ」
ずいぶん慌ててたみたいだけど、と首を傾げる高瀬に、自分がここまで走ってきた理由を思い出すと、綾は高瀬の腕を掴む。
少しだけ眩暈を感じたが、綾はそれを無視した。
「こ、この前の、あの人!」
「…誰?」
「美波さんの家で、高瀬さんに怪我させた人っ」
慌てる綾を余所に、しばらく考えたあと高瀬は、ああ、と頷いた。
「鈴木のこと?どうかした?」
「あの人が追いかけてきて、」
「あいつが?」
早口で伝えようとすると、ぐらぐらと頭の中が揺れるような錯覚を覚えて眩暈と吐き気が強くなる。
「…っ、きもちわるい…」
「は?おい、綾?」
涙目で気分が悪いと訴える綾をシーツに横たえて、高瀬はため息をついた。
頭を撫でてやると苦しそうに呼吸を繰り返しながら、うわ言のように、逃げなきゃ、と呟く。
「落ち着け、大丈夫だから」
「ただいまー…綾ちゃん、起きた?」
ガサガサとコンビニの袋を揺らしながら、美波が診察室に入ってきた。
「美波さん…それ、どうしたの」
「ん?近くを歩いてたから拾ってきたのよ」
珍しいでしょ?と足下に視線を落とす。
Date;【人狼】
狼男、ワーウルフなどとも呼ばれる。
普段は人の姿をしており、基本的には見分けはつかないが、変身能力を保持しており狼の姿になることが可能。
例外として、満月の夜は人間の姿に戻れなくなったり、新月の夜は狼に変身できなくなったりするといった事例も報告されている。
普通の人間よりもはるかに高い身体能力を持ち、最盛期には吸血鬼に並ぶほどに恐れられた。
現在では純粋な人狼は確認されておらず、人間との混血が数名登録されているのみとなっている。
また、その殆どは人間との交配の末、人狼としての能力は低下、または無力化されている。
しかし、ごくまれに人狼としての血を濃く受け継ぎ、人外の身体能力および変身能力を備えている者が現れる。
こういった者の中には、人間に対して好意的な者が多いため、上記の者同様、危険視する必要はない。
(協会内データベースより抜粋)
「はぁ、はっ…はぁ…っ」
そろそろ夏が近付き始めた日差しに汗が滲んで、息が上がるのも構わず、綾は走る。
『あれー?この前の…綾ちゃん、だっけ?』
街中で声をかけてきたのは、この間美波の家で出会った怪しいあの男だった。
――なんで…なんでっ?
後ろを振り返っても、追ってきている様子はない。
それでも不安に駆られ、足は止めないまま見知った小さな診療所まで走ってきた。
「は…はぁ、はぁ…っ?」
診療所のガラス製の自動ドアまで辿り着くと、綾はようやく立ち止まる。
――あ、れ…?
視界がぐらぐらと揺れ、膝が震えて足に力が入らない。
手足の指先はみるみるうちに冷えていくのに、こめかみを冷たい汗が伝い落ちていく。
視界が真っ白に染まっていき、平衡感覚がなくなる。
せり上がってくる吐き気に立っていられなくなった綾は、思わず壁に手をついた。
最後の力を振り絞ってドアをくぐると、ひんやりと冷房の効いた待合室のソファーに先客がいた。
***
「…ん」
「綾?起きた?」
微睡んでいた意識が聞き慣れた低音に浮上する。
声のほうへ視線を向ければ、怒ったような困ったような顔の高瀬がいた。
「たかせ、さん…」
「貧血と軽い脱水症状。いきなり倒れたからびっくりした」
ほら、とコップを差し出されて、綾は体を起こす。
コップの中のスポーツドリンクを数回に分けて飲み干した。
ふう、と息をつく綾を見て苦笑しながら高瀬はベッドの端に腰かける。
「まだ飲む?…てか、お前なにしに来たの?」
「え?…あっ」
ずいぶん慌ててたみたいだけど、と首を傾げる高瀬に、自分がここまで走ってきた理由を思い出すと、綾は高瀬の腕を掴む。
少しだけ眩暈を感じたが、綾はそれを無視した。
「こ、この前の、あの人!」
「…誰?」
「美波さんの家で、高瀬さんに怪我させた人っ」
慌てる綾を余所に、しばらく考えたあと高瀬は、ああ、と頷いた。
「鈴木のこと?どうかした?」
「あの人が追いかけてきて、」
「あいつが?」
早口で伝えようとすると、ぐらぐらと頭の中が揺れるような錯覚を覚えて眩暈と吐き気が強くなる。
「…っ、きもちわるい…」
「は?おい、綾?」
涙目で気分が悪いと訴える綾をシーツに横たえて、高瀬はため息をついた。
頭を撫でてやると苦しそうに呼吸を繰り返しながら、うわ言のように、逃げなきゃ、と呟く。
「落ち着け、大丈夫だから」
「ただいまー…綾ちゃん、起きた?」
ガサガサとコンビニの袋を揺らしながら、美波が診察室に入ってきた。
「美波さん…それ、どうしたの」
「ん?近くを歩いてたから拾ってきたのよ」
珍しいでしょ?と足下に視線を落とす。