Moon_and_sun
──数日後。


大きく開けた口の中を興味津々に覗き込んで、綾は少し残念そうに首を傾げた。

「牙…ないよ?」

綾は口を閉じた高瀬を見上げる。
残念だったな、と綾の頭を撫でながら高瀬は美波を横目で見る。
二人を離れて見ていた美波は両手で顔を覆っている。

「隠してるの。…美波さん、笑いすぎ」

「太陽の光に当たっても灰にならないし、十字架も平気だし…」

ほら、と首に光る小さな銀色の十字架がついたペンダントを持ち上げてみせる。

「そんなオモチャじゃ役に立たない…てか、お前、それが効いたらどうすんだよ」

「悪霊退散!」

「幽霊じゃないし…」

楽しそうに笑いながら、綾は膝に乗せた分厚いハードカバーの本を開く。
じゃあ次は…、と呟きながらページをめくる。
げんなりしながら高瀬は本に目を向けたままの綾を見る。

「よくそんなオカルト本見つけてきたな…」

「ん?学校の図書館にあったの」

「変な大学…」

「民話とか伝承とか研究してる教授がいて…あ、これは?棺桶の中で眠る」

「…悪趣味」

「じゃあ…鏡に映らない」

「ちゃんと映るし」

「痩せてて肌の色が青白い」

「不健康な人間でも当てはまるだろ?」

「黒いマントを身に纏って…」

「…おい」

いつの時代の吸血鬼だよ…と逆に高瀬に問い返されて、そうだねと笑いながら綾は顔を上げる。

「ん~…じゃあ、コウモリや狼などの動物を操る」

「それはこの前見ただろ?」

「この前…?」

身に覚えがないと綾は首を傾げる。
高瀬はコーヒーを飲みながら、あの時だよと促す。

「お前が痴漢に襲われそうになったとき」

「…あの、黒い鳥みたいな…?」

「そうそれ。あれが、蝙蝠」

「コウモリ…」

好奇心を抑えきれない視線を向けられて、高瀬は大きくため息をつく。

「…だから、笑いすぎだって美波さん」
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