Moon_and_sun
「…離せ」
「あぁ?」
「綾を離せ」
鈴木は高瀬を睨みつけると、綾から手を離す。
よろけた綾に高瀬が気を取られた一瞬で距離を詰めると、今度は高瀬の襟元を掴んで、背後のドアに叩き付けた。
鈴木の手に握られている物を見て、高瀬は顔を歪める。
「っ、」
「へぇ、こんなオモチャでも役に立つじゃん」
チャリ、と音を立てて、鈴木の手から下がる鎖付きの銀のロザリオが揺れる。
汚いものでも見るような視線をそれに投げてから、高瀬は鈴木を睨む。
高瀬の視線も気にせず、鈴木はそのロザリオを高瀬の肩に押し付けた。
ジュッと皮膚を焦がす音と、黒い煙が上がる。
「くっ…お前、本当うざい…ッ」
「…う、わ!?」
バサバサッという羽音と同時に、真っ黒な翼が鈴木に襲いかかる。
鈴木はそれを振り払って、床に叩きつける。
床でバサバサと羽音をたてるそれは高瀬の使う大きな蝙蝠だった。
「くそっ…逃げたな…!」
鈴木が視線を戻すと、高瀬の姿は消えていた。
残ったのは床でもがいている蝙蝠と黒く変色したロザリオ。
鈴木は苛立ったようにその蝙蝠を見下ろすと、足を振り上げる。
「っ、止めて!」
呆気にとられていた綾が、踏みつけられそうになった蝙蝠を咄嗟に庇う。
綾に危害を加える気はないのか、鈴木は一歩下がると大きく舌打ちした。
「将くん、やり過ぎよ」
「…あの人が悪い」
「…もう帰って。今度ゆっくり説明するから」
「まったく…上には報告しとくからね」
鈴木は苛立ちを隠しもせず美波に向かってそう言った。
部屋を出ていく間際、申し訳無さそうに床に座り込んだ綾に目をやる。
「…ごめんね」
***
静かになった部屋の中、美波のため息が大きく響く。
「…綾ちゃん、大丈夫?」
「うん、平気。それより…」
綾は床に横たわる蝙蝠を抱き上げる。
鈴木が出ていった後はもがくこともなく、床でぐったりとしたまま動かなくなってしまった。
「…ご主人様はどこ行っちゃったのかな…」
綾の声に反応したのか、蝙蝠は綾の腕の中で身じろぎするように動いた。
綾が手を離すと、床に降り立った蝙蝠が大きな羽を広げる。
羽音と同時に強い風が起こり、綾は思わず目を閉じた。
「っ、…え?」
「はぁ…悪かったな、嫌な思いさせて…」
目を開けると、つい先程まで蝙蝠がいた場所に、高瀬が座り込んでいた。
大きく息をつく顔は、いつも以上に血色が悪い。
「高瀬さん…っ!」
「っわ!?」
突然現れた高瀬に驚いたのも一瞬で、綾は高瀬に抱き付く。
いつもならしっかりと抱きとめる高瀬なのに、綾と一緒に床に転がってしまう。
「ごめん…今、力入んない…」
「っ、ごめ、なさい…」
「泣くなって…」
床に倒れた高瀬に抱きついたまま泣き出してしまった綾の背中を困ったように撫でる。
「あぁ?」
「綾を離せ」
鈴木は高瀬を睨みつけると、綾から手を離す。
よろけた綾に高瀬が気を取られた一瞬で距離を詰めると、今度は高瀬の襟元を掴んで、背後のドアに叩き付けた。
鈴木の手に握られている物を見て、高瀬は顔を歪める。
「っ、」
「へぇ、こんなオモチャでも役に立つじゃん」
チャリ、と音を立てて、鈴木の手から下がる鎖付きの銀のロザリオが揺れる。
汚いものでも見るような視線をそれに投げてから、高瀬は鈴木を睨む。
高瀬の視線も気にせず、鈴木はそのロザリオを高瀬の肩に押し付けた。
ジュッと皮膚を焦がす音と、黒い煙が上がる。
「くっ…お前、本当うざい…ッ」
「…う、わ!?」
バサバサッという羽音と同時に、真っ黒な翼が鈴木に襲いかかる。
鈴木はそれを振り払って、床に叩きつける。
床でバサバサと羽音をたてるそれは高瀬の使う大きな蝙蝠だった。
「くそっ…逃げたな…!」
鈴木が視線を戻すと、高瀬の姿は消えていた。
残ったのは床でもがいている蝙蝠と黒く変色したロザリオ。
鈴木は苛立ったようにその蝙蝠を見下ろすと、足を振り上げる。
「っ、止めて!」
呆気にとられていた綾が、踏みつけられそうになった蝙蝠を咄嗟に庇う。
綾に危害を加える気はないのか、鈴木は一歩下がると大きく舌打ちした。
「将くん、やり過ぎよ」
「…あの人が悪い」
「…もう帰って。今度ゆっくり説明するから」
「まったく…上には報告しとくからね」
鈴木は苛立ちを隠しもせず美波に向かってそう言った。
部屋を出ていく間際、申し訳無さそうに床に座り込んだ綾に目をやる。
「…ごめんね」
***
静かになった部屋の中、美波のため息が大きく響く。
「…綾ちゃん、大丈夫?」
「うん、平気。それより…」
綾は床に横たわる蝙蝠を抱き上げる。
鈴木が出ていった後はもがくこともなく、床でぐったりとしたまま動かなくなってしまった。
「…ご主人様はどこ行っちゃったのかな…」
綾の声に反応したのか、蝙蝠は綾の腕の中で身じろぎするように動いた。
綾が手を離すと、床に降り立った蝙蝠が大きな羽を広げる。
羽音と同時に強い風が起こり、綾は思わず目を閉じた。
「っ、…え?」
「はぁ…悪かったな、嫌な思いさせて…」
目を開けると、つい先程まで蝙蝠がいた場所に、高瀬が座り込んでいた。
大きく息をつく顔は、いつも以上に血色が悪い。
「高瀬さん…っ!」
「っわ!?」
突然現れた高瀬に驚いたのも一瞬で、綾は高瀬に抱き付く。
いつもならしっかりと抱きとめる高瀬なのに、綾と一緒に床に転がってしまう。
「ごめん…今、力入んない…」
「っ、ごめ、なさい…」
「泣くなって…」
床に倒れた高瀬に抱きついたまま泣き出してしまった綾の背中を困ったように撫でる。