お熱いのがお好き?
義母・葉子のワナ
2年前ーーー
その日も葉子は突然、麻紀の元へ訪ねてきた。
平日木曜の午前11時。
上の二人の子供は小学校、4歳の雄哉は幼稚園に行っていた。
ピンポーン……
「ゲゲッ!」
ふいをつかれ、麻紀はしかめっ面をする。
チャイムが鳴ったが運の尽きだ。
居留守など使えない。
麻紀がいつも使うメタリックピンクの軽自動車がポーチに停めてあるからだ。
麻紀の住む土地では、車は必須だ。
18歳で自動車免許を取って以来、麻紀にとっては靴と同じ。
どんなに近い場所でも車で行くことを葉子は知っている。
しぶしぶ、ドアを開けた。
「ああら。お義母さん!いらっしゃいませ〜。
でも、今から買い物行こうかと思ってたの。ち・ょ・う・ど!出るとこだったんです」
チクリ、とやる。
葉子には全然効きやしないとわかっていながら。
「はああ〜、ペットボトルのお茶と牛乳とみりんとパイナップル缶、一緒に買うんじゃなかったわよ…」
義母はブツブツ言いながら、ズカズカと上がり込む。
仕方なく、茶をいれてやり、3時のおやつに食べようと楽しみにしていたどら焼き2つを木皿の上に載せて差し出した。
ーーどうか、食べません様に…と祈りながら。
餡子好きな葉子はいつもだったら、すぐさま手を伸ばすのにそうしなかった。
どら焼きに嬉しそうな顔をしない姑に、麻紀はふと、嫌な予感がした。