お熱いのがお好き?


荷物を降ろしたばかりで、休憩したいところだが、夕飯の前に一言、ホテルにクレームをいれてやろうと思い、部屋の電話の受話器に手を伸ばした。



その時だった。


「ダメだよ!ママ!ホテルの人に変なこと、言わないでよ!」


竜聖の鋭い声がして、麻紀は、はっと窓の方を見る。


窓の山の景色をバックに、不安そうに縋り付く妹弟を従えて、竜聖が睨みつけるような目を麻紀に向けていた。


竜聖の言葉に麻紀はどきりとする。


「ど、どうして、ママがホテルの人に何か言うってわかったの?」


引きつり笑いをしながら尋ねた。


「去年、箱根に行った時も、ママはホテルの人に文句ばかり言ってたじゃん!
僕たちすごく恥ずかしかったよ。
ここでは、そんなことやめてよ!」


眉をしかめ、竜聖はいかにも嫌そうに言った。前夫・真和にそっくりな口元で。


「い、嫌ねえ。文句ばかりって。
ママはそんなヒステリックじゃないから。言って当然の事をいっただけよ」


麻紀は胸を張る。


そうなのだ。

去年、子供達と泊まった箱根の宿は夏休み価格でぼったくりの上、禁煙ルームなのに部屋がえらく煙草臭かった。






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