お熱いのがお好き?

煙草が大嫌いな麻紀は、部屋に入った途端、吐きそうになった。


そして、着いたばかりでとりあえず手を洗おうと、洗面台のあるバスルームに足を踏み入れたところで事件は起きた。


バスタブの淵に、一本の黒々とした短い“縮れ毛”を発見したのだ。


これは決定的だった。


(なんでわざわざ箱根まで着て、 他人のそんなものを見せられなきゃならないんだ…!)


麻紀がクレームを入れると、すぐに女マネージャーと清掃係の女性が謝罪にきた。


『これは大変な失礼を致しまして、申し訳ありません』


二人は、身体を折って平謝りに謝ったけれど、麻紀は謝罪の態度にも腹を立てた。


心がこもっていなかったからだ。


明らかに、
[これだけ謝ってるんだから、いいでしょ]という2人の心のうちが麻紀には見て取れた。


部屋を変更して欲しいという麻紀の要望に、今夜はすべて満室で、変更には応じることが出来ない、とマネージャーは言う。


『あんたじゃ話にならないわっ!
このホテルの責任者か支配人呼んでよ!』


エキサイトする麻紀に女マネージャーは、臙脂色ジャケットの内ポケットから白い封筒を取り出した。







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