お熱いのがお好き?
麻紀が考えついたのは、環境を変えることだった。
普段、苦手で触ろうともしない清志のノートパソコンを開き、悪戦苦闘の末、ここぞと思う数件のファッションホテルのデータをプリントアウトした。
火事場の馬鹿力で、プリンターもどうにか使いこなした。
そして、得意げにその紙を清志の目前に突き付けた。
「どう?これ!」
「そんなことまでしなくていいのに…」
清志は弱り切って、八の字眉毛を更に下げて言う。
「駄目よ!私が欲求不満で浮気してもいいの?この中から、1つ選んで!」
麻紀の勢いに逆らえず、清志がじゃあ、これ、と選んだホテルは、[宮古]という、やたら和風な名前のホテルだった。
「エ〜なんかダサそう…」
自分でリストに入れたくせに、麻紀は顔をしかめた。
数日後。
清志の車で小1時間かけて訪れた[宮古]は大当たりだった。
清志と暮らし始めてから、麻紀は仕事をしていなかった。
テレビショップ鑑賞と懸賞応募に明け暮れる暇な麻紀はいつでも行けるが、サービス業の清志は平日が休みだから、彼に合わせた。
世間の人々は仕事をしている水曜の午前10時に、ホテル[宮古]に足を踏み入れる。
ホテルの外観は割と普通だ。