お熱いのがお好き?
せっかくの旅行なのに、なんで元義母の顔などみながら、温泉に入らなきゃいけないんだ…
麻紀の心は苛立つ。
「部屋で子供達が待ってるから、先に出ますね!」
早口で言い、勢いよくザバリ、と湯から立ち上がり葉子から離れた。
「待ってよ、麻紀ちゃん…」
葉子が何か言いかけていたが、麻紀は無視して、露天風呂を後にした。
「まったくもう、なんなのよ、あのババア…何考えてんのよ…」
ピンクのベロア地のジャージに着替えた麻紀はブツブツ言いながら、渡り廊下を歩いた。
廊下には、誰もいない。
ふと、むしゃくしゃした気分を晴らしたくなった。
「えい!」
手にしていた汚れたパンツとブラジャーの入った巾着バッグを、力任せに床に投げつけた。
「あああっ!」
手元が大いに狂ってしまった。
巾着バッグは緩やかな弧を描き、2メートルくらい飛んだ。
その先に、廊下の角を曲がってきたカップルが現れ、右側にいた女の肩に巾着バッグが当たった。
「あっ、すいませーん…」
へらへらしながら、麻紀は女に謝った。
(自分がノーコンなの忘れてたあ…)