愛してくれないなら、殺してほしい


彼の手から私の手に渡るナイフ。ずっしりとした重みは、包丁のそれと比べ物にならない。


「憎いでしょう、僕が。自分勝手な理由で、あなたにこんなことをする奴が」


「……」


憎くない訳がなかった。ナイフを持つ度に――夢の中で何度こいつを殺したことか。


今もそう。
愛した、という理由で私を辱しめる彼が許せない。


だから、誰もが“許せる殺人”を――


「殺してください。あなたが嫌う、僕を」


何よりも、彼が望む殺人を――


手にはナイフ。手の届く場所には憎い奴。この二つ揃って何を躊躇する必要がある?


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