おかしな二人
水上さんは、運ちゃんに“表参道”と一言だけ言うと腕を組んで黙ってしまった。
おかげで無言の車内は、気詰まりったらない。
仕方ないので、そもそもの目的について話題を振ってみる。
「どこで食事ですか?」
「ぅん。……うぅん」
えーっとぉ。
何で、そんな曖昧な返事?
表参道って指定しているんだから、食べに行くところは決まってるってことでしょ?
それとも、何かサプライズ?
例えば、知らぬ振りして連れて行かれたお店は超豪華で、通された個室に入って食事をしたら“ハッピーバースデイ AKARI”なんつってデコレートされたケーキの上で、線香花火並のカラフルなほっそい蝋燭がバチバチ灯ってる、みたいな感じ?
つーか、あたし九月生まれだから、誕生日は既に一ヶ月以上前に過ぎちゃってるけどね。
大体、あたしの誕生日を水上さんが知ってるか、って言う根本的な問題があるな。
雇い主だから、ある程度の身上は把握しているだろうけど、誕生日まで心に留めているわきゃないよね。
沈黙の車内が気詰まりなんで、一人そんな妄想をしていたらタクシーが止まった。
いつの間にやら、表参道に到着したらしい。
可笑しな妄想のおかげで、早く着いたような気分になる。
妄想も悪くないな。