おかしな二人
「そないなことより。敬語は、使うなって言うたやろ」
水上さんは、ずんずん先を歩きながら、ちょっと怒ったように言う。
あたしは、せめて買ってもらった時位は、と思い、あえてそうした言葉を使ってみたんだけど、余計な事だったらしい。
「ごめん。ありがとう」
今度は、素直に言ってみた。
「おう」
水上さんは、相変わらず背を向けたままだったけれど、その返事はとっても優しい声音だった。
きっと、前に回りこんで彼の表情を見たら、菩薩のような穏やかな顔をしているんじゃないか、と思う。
けれど、その表情を想像する事はできなかった。
だって、普段は、菩薩どころか閻魔様のような顔ばかりしているから。
舌抜くどぉー! てね。
あぁ、でも。
酔っ払った時の顔なんかは、菩薩とまではいかないけれど、穏やかで優しい顔つきをしているよね。
ああいう顔のが、いいのにな。